第304章

川崎正弘は、なんとか抵抗して抜け出そうとした。

野呂栞の顔がすっと沈む。どこか、俺様社長が小さな奥さんを怒鳴りつけるみたいな迫力で、

「黙れ。大人しくしてな。じゃないと――痛い目みせる」

川崎正弘は思わず聞き返したくなった。俺様社長モノ、読みすぎじゃないか? そういう台詞って、だいたい男主人公の役目だろ――と。

口を開きかけた、その瞬間。

野呂栞が鋭く一瞥しただけで、川崎正弘はしゅん、としおれた。

……この女、怖ぇ。

野呂栞は体重六十五キロ以上はある川崎正弘を抱え上げると、まるで普段と変わらない調子で、すたすたと店の外へ運んでいった。

鍋料理店の入口は、人の往来が多い。

普...

ログインして続きを読む